と船体整備がその主たる業務になる。
荷役の指揮監督はもちろん、航海中の冷凍コンテナの温度管理や船体の錆落としまで、その守備範囲は広い。責任はずしりと重いのだが、その分だけ裁量権の幅も広くやりがいのある仕事である。
特に荷役中は、一等航海士の独断場ともいえた。コンテナの積み付けプランの検討、危険物積載の確認、船体強度の保持など、まさに腕の見せどころである。
三等航海士や二等航海士のころはルーティンワーク(きまった仕事)に追われるばかりで、創造的な仕事はなかなかできなかった。たとえ時間的に余裕があっても、裁量権がないため、できることには限界があった。しかし、一等航海士ともなれば、甲板関係の作業全般を切り盛りすることになる。どうすれば安全に、そして効率的に仕事ができるか……。それを考えていくと、いろいろなプランが浮かんでくる。その途端、仕事が急に面白くなった。
「チーフ(一等航海士)のころは、俺が船を動かしているんだ、っていう自信があったな。そりゃあ、面白いぞ」
入社して間もないころ、ある船長から聞いた言葉だが、まさに至言である。責任も重く、心配ごとで神経がすり減ることも多いが、それ以上にやりがいの大きさのほうが、私にははるかに魅力的だった。
「現在の積み付けプランでは、甲板積みは三段が限度です。それ以上積むと、GM(船の安全性を示す指標)が小さくなりすぎます」
積み付け計算の結果をもとに、コンテナターミナルのプランナーへ急いで電話を入れる。
「バラスト(重心位置を調整するために船内のタンクヘ取り入れる海水のこと)で調整できませんか?」

「そうすると、脚が入りすぎる(喫水が深くなりすぎる)んです。港の水深限度に、引っかかってしまいますよ。貨物の積み付けを変更できませんか?」
「判りました、急いで検討します」
そんなやり取りをしながら、荷役の計画はすすんでいく。
いかに全体を良く見回し、問題点を正確に把握し、最善の手段を選び出していくか……。一等航海士のそうした能力が、船の安全と、効率の良さを生み出していくのである。すなわち毎日が腕の見せどころであり、その緊張感はたまらない魅力だった。
一等航海士になって大きな責任が与えられた分、船内での待遇も少しばかりよくなった。
まず私室だが、それまでの五割増しほどの広さ(十三畳)になり、机やいすもゆったりとしたサイズのものになった。室内にはシャワーやトイレもついており(これは全室に完備)、ちょっとしたビジネスホテル並みである。
「サロンテーブルヘ移った気分はどうですか」
ある日、司厨長が私に声をかけた。
サロンテーブルとは、幹部乗組員の食事テーブルのことで、船長、機関長、一等航海士、一等機関士、通信長がメンバーとなる。食事時には、これらのメンバーが顔を合わせて円滑な意思の疎通を図るのだ。
「前の方が気楽でしたね」
ニヤッと笑って答える私……。船長の横でおとなしく食べるよりも、わいわい騒ぎながら食べる方が、私の性分にあっていたようである。(川崎汽船(株) 一航士)
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